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「サクラと手紙と」


私はもうすぐあなたに出会います
この手紙はその日のための、私の小さなレッスンです」

マンションの入り口にある錆びれた白いポストの中に
その手紙は入っていた

何も書かれてない淡いブルーの封筒。
中身はただ、その2行の言葉と広い余白だけだった

新手のアダルトなチラシだろう。
そう思った僕は、電話代の請求書だけ、ダウンコートのポケットに入れると
どこかのピザ屋のチラシと一緒に、その手紙をゴミ箱に捨てた


それから一週間後のこと、その手紙のことなどとうに忘れかけていた頃
またあの青い手紙は、この錆びれたポストに入っていた。

「小さな頃の一番の想い出は、たぶん、こんな夕焼けです
あなたとただ、ふたりで歩いた、こんな優しい夕焼けです」

その言葉と一緒に、1枚の写真が同封されていた
それはどこかの街のきれいな夕焼けの写真で
その風景に僕は、なぜか懐かしさを感じていた

・・・これは本当のことなのだろうか?

確かにそれは、白く美しい冬の夕焼けだった

その手紙は毎週日曜の朝、ポストに入っていた
内容はどれもまるで小さな日記のようで
その言葉にはどれも、優しい想い出ばかりが描かれていた。
僕は次第にその手紙を、心待ちにするようになった
そしてそれはごく自然に、相手を思う気持ちに変わった

どんな人なんだろうと

会いたい気持ちもあったけど、待ち伏せさえしかけたけど
それはきっとその人との、黙って交わした約束を
まるで破るようなもので、会えばこの関係は
たちまち壊れてしまう気がした

僕は土曜日の夜、その手紙にはじめて返事を書いた
驚かないように、傷つけないように、白い封筒にただひと言

「日曜日の君へ
もしも出来れば 会いたい」と

翌日の日曜日、静かな雨が降っていた。
ポストにはその人からの手紙は入っていなかった
僕の手紙は残ったままだ

けれども中身を読んだ形跡は
同じように残されていた

やはり、どこか傷つけてしまったのだろうか?
僕は不安になった。次第に後悔の気持ちがあふれてきた
こんなこと、しなければよかったと


その日から手紙は途絶えてしまった



数ヶ月が過ぎた、3月の終わり
美しい桜並木がもうすぐ見られそうな頃
あの手紙が入っていた
小さな懐かしさに僕は、その場で手紙を開けた

「もうすぐ、あなたに逢えますから
きっと、逢いにゆきますから」

ただ、そう書かれていた

僕は高鳴る気持ちを抑え
その日を静かに待つことに決めた
二度と過ちを繰り返さないようにと


ある日の日曜日の朝

いつものように、遅く起きた僕は新聞を取りに
マンションの1階へと降りた

僕のポストの前にひとりの若い女性が立っていた
肩までかかるサラサラな髪に、淡い桜色のワンピース

懐かしいその微笑
彼女は僕の幼馴染だった
あの頃とは見違えるほどに、とてもきれいになってた

「こんにちは」
彼女はぺこりと僕にお辞儀をした

僕は驚いて、彼女に言った
「ど、どうしたの?こんなところで?」

「お久しぶり・・・3年ぶりかなぁ」
そう言いながら彼女は僕をじっと見つめ
細い人差し指を向け、「相変わらずね、その寝癖頭」と言った
僕は照れて、頭をくしゃくしゃかいた
彼女は小さな声で笑ってる

あの頃がひととき二人に蘇る

「仕事は順調?」

「あぁ・・・でも・・・」

そう言いつつも、心では手紙の主が
彼女だったんだと思っていた

幼い頃から、二人はいつも仲良しだった

でも、中学2年の頃
友達にからかわれたのがきっかけで、僕らは急に気まずくなった
高校になってからは二人は、お互いに逢うこともしなかった

本当は彼女のことが僕は、ずっと好きだった
でも、近すぎていつしか、見えなくなってしまうものがある
いつしか離れていたことさえ、日々の中で気づきもせずに


「手紙・・・」
僕はつぶやいた

「あぁ、そう。手紙。相手があなただったなんて
私、びっくりしちゃった」

「え??」
僕は少し、混乱する

「実はこの手紙は・・・
私の母が書いたものなの」
少しためらいがちに君は言う

「君のお母さんが??」
僕は、なおさら訳がわからなくなる

「うん。この手紙を届けてくれって
理由は何もいわないの。でも、断ることも出来なくて・・・
私、ちょうど日曜日は、この先にある図書館の仕事があって
その途中でこのポストに入れてたの。でも・・・どうしてあなたに・・・?」

「わからない。僕もまったく覚えがないんだ」

「そうなの・・・
で、どんなことが書いてあったの?
そういえば、あの”会いたい”って・・・
あれはあなたが書いてポストに入れたってこと?
私、もう、どうしようかと思っちゃって
まさか、母が不倫してるんじゃないかって・・・」

君の髪が小さく揺れる

「まさか。僕は本当に誰かわからなくて
それでそう書いて、自分のポストに入れておいたんだ」

「そうなの・・・
それで私、もう、手紙を出すのはやめようかと
思ったんだけど・・・手紙は必ず出してくれって
母が最初に言ってたから、それで先日、出しそびれた手紙を
入れておいたんだけど・・・」

”もうすぐ逢いにゆきますから”と書いた手紙がそうなのだろう
きっと彼女は不倫を疑って、ここに住んでいる相手を
当然、調べたに違いない。それで僕だと知ったのだろう

「ところで、君のお母さんは、今は・・・・?」

「うん。実はお母さん、重い病気で・・・
そのう・・・もう、あまり長くなかったの」


「え、病気・・?
長くなかったって・・・??」

「うん、3ヶ月前に、急に様態が悪化して・・・
ちょうど私があなたの”会いたい”って手紙を見た後ね・・・
それでその数日後に亡くなってしまって・・・」

思い出したのか、少し彼女は涙声になる

「それで先日、病院から連絡があったの。母のベッドの下から手紙が出てきたって
私はてっきり、すべて出したつもりだったの。でも、最後の一通が残ってたみたいで・・・
中身は読まないでって、いつも言われていたし、でも、これは最後の手紙だから
今日は直接、本人に・・・あなたに手渡して、ちゃんと母のことを伝えなくちゃって思ったの

だからあて先のあなたに見てほしいの
それと出来たら中身を・・・そのう、聞かせてもらえたら・・・」

君は瞳を濡らしたまま、戸惑いがちに僕に言った

「うん、わかった。でも、なんで僕なんだろう?」
このポストには、部屋の番号が書いてあるだけで
僕の名前は書いていない。疑問ばかりが僕にあふれた

もしかしたら、本当は以前に住んでた人に宛てた
ものだったのかもしれない。僕はそう心で思った

ゆっくりと手紙を開くと、その内容に
僕は驚いていた

彼女が何?って顔をしている

僕は顔を上げ、彼女に教える。

「え、えっと・・・
ただ、ひと言。ありがとう・・・って書いてある」

「そう・・・・
母はあなたに何を伝えたかったんだろう・・・」

彼女は小さくつぶやいた

本当は、その続きがあった
けれど、彼女には言えなかった

彼女はそっと空を見上げ
またうつむきながら小さく涙を流してる。
僕はそんな彼女のそばで、ほんの少し励ました

「大丈夫・・・?」と語尾を上げ
「大丈夫」と語尾を下げて。

「うん、ごめんね、泣いたりして・・」
彼女は顔をあげ、ほんの少し笑顔を作ると
僕に背を向けながら、ささやくようにつぶやいた

「なんてきれいなサクラ・・・」

川沿いの桜並木に、子供たちがはしゃいでいる

「そうだね・・・」

僕はそう答えると
もう一度、彼女の母親の続きの言葉を思い浮かべていた


「今までこんな私のいたずらに、付き合って下さって、ありがとうございます
どれも私と娘の思い出ばかりを綴りました。私の大切な宝物です
娘をどうか、よろしくお願いします。

娘はずっと、あなたのことを・・・それでは」



僕らはそっと空を見上げた
春がやさしく二人を包んでる
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2013.04.14 
そういえば、随分と昔の話だけど

    
まだ人の少ない朝の通学途中のバスの中

    
僕の後ろの席で

    
僕は窓に頭をくっつけて半分居眠りしていた

    
女子高生がとても小さく

    
I LOVE YOU....I LOVE YOU

    
とささやく声が聞こえてきた

    
一瞬、ドキッとした。なんなんだ

    
よく耳をすまして聞いてみると

    
彼女は小声で歌を歌っているようだった

    
隣の友達らしき子も、一緒に小さく歌い始めた

    
とてもきれいなコーラスだ

    
それが後にオフコースのI LOVE YOU

    
という歌だと知った

    
今でもこの歌を 時々好んで聞いている

    
とても切ない歌なのだけど

    
あのときの朝の日差しと優しさが染み込んでくる


    
それにしても

    
あのとき勘違いしなくてよかった
2013.04.02 
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